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2021年9月

報告要旨 池上大祐(2021年8月20日)

2021年度夏季研究大会報告要旨(2021年8月20日 オンライン開催)                  
グアム現代史研究の現状と課題―アメリカ史研究と世界史教育の観点から―
                 池上 大祐

 

はじめに
本報告の目的は、(1)グアム現代史研究(特に日本国内で)がどこまで積み重ねられているのかを整理すること、(2)グアム現代史研究の成果を世界史教育にどう生かしうるのかを、実践例をもとに紹介すること、(3)グアム現代史研究の今後の課題と展開可能性を、スペイン研究者と共有することである。


(1)については、主に①第二次世界大戦(とその記憶)をめぐる研究、②米軍基地/軍政統治をめぐる諸問題、③「グアム基本法」(1950)成立をめぐる研究、④チャモロ・ナショナリズムに関する研究についてその特徴や論点を整理した。管見の限りだが、「アメリカ史」という枠組みからグアムを対象とした研究蓄積は十分ではなく、グアム現代史研究の担い手は、主にグアム在住(出身)の研究者と数名の日本の研究者が中心となっている。それはまさに、米領グアムが「未編入領土」という「州」とも「独立」とも異なる独特の政治的地位に置かれ、「アメリカであってアメリカではない」両義的な境界地域に置かれてきたことも影響しているといえよう。それもあいまってグアムは、アメリカ史の観点からはアメリカ社会史(内政史)からも、アメリカ外交史からも等閑視されがちであった。ただそれでも、支配と被支配の構造をトータルに分析しようとする帝国史研究の枠組みや、戦争記憶研究の視座も蓄積されていることから、広く「現代史研究」という枠組みのなかで関心が高まってきているさなかにあると位置づけることができる。報告者もその潮流に乗せてもらうなかで、米海軍によるグア軍政統治の実態、1960年代の南太平洋戦没者慰霊公苑建設をめぐる戦争記憶の相克、1980年代のグアム太平洋戦争歴史公園の整備と環境調査との関係性について研究を進めていることを紹介した。


(2)については、①グアムのおける学校教育用の教則本の紹介、②京都の公立高校のグアム修学旅行事前学習(2014年)、③報告者が担当する琉球大学の授業実践について紹介するなかで、「グアム」という個別事例の歴史を掘り起こすことが、植民地支配の問題、戦争の実態、基地問題といったグローバルな諸問題への接続を可能とすることを強調した。近年、日本における高等学校の世界史教育刷新が試みられ、歴史総合や世界史探究といった新科目が2022年度から順次設置されることになる。知識の習得から思考力の育成に軸足を置くようになる世界史教育の方向性に、グアム現代史研究が貢献しうることは、島=ローカルな視座から世界史を見通すことの意味を問い直すことにあろう。質疑応答でも、千葉県におけるグローカルな記憶をめぐる事例をご紹介いただき、地域から世界史をまなざすことの意義を共有することができた。


(3)については、司会者からいただいたご指摘のように、今回報告者の力量不足で「移民」(人の移動)をめぐる研究をフォローできなかったことから、その研究史の整理も含めて帝国史研究、植民地責任論、戦争記憶研究(近年では公共史という概念も登場している)などの観点から、他のマリアナ諸島も視野にいれたグアム現代史研究のより一層充実化させる必要があると論じた。またスペイン統治時代のグアムをも射程にいれた「グアム史」の通史的理解を深めることで、いわゆるローカルへの軸足を重視する「グローカルヒストリー」を鍛え上げていく必要性を強調した。その際には、報告者自身の語学の壁を超える必要もあると同時に、今回九州スペイン研究会に参加させていただいたご縁から、今後も、それこそ「九州/沖縄」という生活圏を土台とした研究交流を継続していくなかで、スペイン植民地史研究との架橋―将来的にはこの機会で得た交流の機会をもとに、日本語で読むことができる「グアム通史」(翻訳も含めて)を発表すること―を目指したいという意思を表明した。

 

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