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報告要旨 疇谷憲洋(2017年8月10日)

2017年度夏季研究大会報告要旨(2017年8月10日 北九州市立大学)
リスボン地震(1755)からの復興とポンバル改革
                              疇谷憲洋

ポルトガル国王ジョゼ1世の治世(1750~77)は、「ポンバル時代」とも呼ばれている。これは、ポンバル侯爵セバスティアン・ジョゼ・デ・カルヴァリョ・イ・メロが、後に「啓蒙専制主義」とも称される手法で、政治・経済・文化・教育など多岐に渡る様々な改革を行い、ポルトガルの近代化の基礎を築いたとされているのがその理由である。
 しかしながら、ポンバルが実権を掌握し、全般的な改革を推進するのは1756年以降であり、これは、1755年のリスボン地震への対応や復興に関してかれが中心的な役割を果たしたのと対応している。本報告では、「再独立」後の状況と国務秘書体制の構築について述べ、震災時のポンバルの位置付けを明らかにしたのち、震災対応・再建事業とポンバル政権の成立、それが近代ポルトガル政治文化において持つ意義についても検討する。
 スペインとの同君連合期(1580年~1640年)には、ポルトガルは、マドリッドのポルトガル評議会と、スペイン王権の代理人である副王/総督を通じて統治されていた。1640年のクーデターによってブラガンサ朝が成立すると、このクーデターを支持したポルトガル貴族が台頭し、各種顧問会議、評議会や委員会の主要メンバーとなって国政の中心に位置する。こうした多頭政的な体制に対し、国王は、秘書官職を設置して各会議間の調整を行うとともに、国政に影響力を行使していた。ジョアン5世期に、様々な官職を兼務していた寵臣・秘書官コルテ・レアルが死去すると、新たに内務担当、外務・陸軍担当、海外領・海軍担当の三つの国務秘書官職が設置され、他の寵臣とともに国王権力を支える存在となる。
1750年にジョゼ1世が即位すると、ポンバルが外務・陸軍担当国務秘書官に任命される。彼の最初の仕事の一つが、アメリカにおける境界画定(マドリッド条約)の実施であり、弟のマラニャン・パラ総督メンドンサ・フルタードを派遣して、境界画定作業とアマゾン流域の防衛の強化に乗り出す。その一方で、ポンバルは、アマゾン川流域の開発を目的とするグラン・パラ&マラニャン総合会社設立するが、こうした一連の政策は、この地域に先住民教化村を有するイエズス会との対立を招くものであった。
 1755年のリスボン地震は、こうした状況下で起こった。犠牲者1万人以上を数え、震動・津波・火災で市中心部は壊滅的被害を受け、ポルトガル王家はベレン宮で難を逃れたものの、政府機能は物理的に破壊された。こうした中で、ポルトガル政府は、ポンバルを中心に「対応政府」を構築し震災対策と都市再建を進めていく。アマドール・パトリシオ・デ・リズボア著『地震に対する主要な措置の覚書』によれば、犠牲者の埋葬と疫病予防、食・住の確保、「火事場泥棒」の逮捕・処刑、流言蜚語の取り締まりなど、今日の震災対策とも共通するものが多い。首都再建については、王国技官長マヌエル・ダ・マイアを中心とする技官グループに再建案を作成させ、市中心部を格子状の街路で区画し、免震構造を取り入れ規格化された建築を採用して再建することになった。
 こうした震災対応・再建事業を通じて、それまで外務・陸軍担当であったポンバルは、内務担当に異動するとともに、以後、国務秘書官人事はポンバルを中心に行われ、いわゆる「ポンバル政権」の成立を見る。王室財務府や警察総監局といった新たな政府部局が創設され、王権の強化と中央集権化が進んでいく一方で、ポンバルと対立した大貴族やイエズス会は迫害・追放される。権力の確立と並行しながら、ポンバルは、宮宰職、オエイラス伯爵位、ポンバル公爵位を自らが授けられるだけでなく、弟のメンドンサ・フルタードは海外領担当国務秘書官、パウロ・デ・カルヴァーリョも異端審問所長官に任命されるなど、一族の栄達と権力の強化も図っている。
 このポンバル政権の下で再建された都市リスボンの中に、王宮は再建されず、震災前のテレイロ・ド・パソ(王宮広場)は方形に区画されてプラサ・ド・コメルシオ(商業広場)に名称変更されたが、これは、リスボン再建事業と、ポンバルの重商主義・ブルジョワジー保護政策の関連を示すものであり、パッセイオ・プブリコ(「公共遊歩道」)の設置(1764年構想)も、「ブルジョワの世紀」19世紀を予見するものであった。
 1775年にはプラサ・ド・コメルシオにジョゼ1世騎馬像が設置される。その除幕式には祝宴が催され、リスボン再建の「記念碑」的存在となったが、その台座部分にはポンバルの胸像のメダイヨンがはめ込まれた。震災と復興、その過程で起きた独裁的な権力の誕生、国王ではない政治家個人の「栄光化」という、ポルトガルの政治文化史上特異な経験を今日に伝えている。

[資料]
Freire, Francisco José( Amador Patrício de Lisboa), Memorias das principaes providencias, que se deraõ no terremoto, que padeceo a Corte de Lisboa no anno de 1755, ordenadas, e offerecidas à Majestade Fidelissima de Elrey D. Joseph I. Nosso Senhor ,Lisboa , 1758
[二次文献]
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AA.VV., O Terramoto de 1755-Impactos Históricos-, Livros Horizonte, 2007
疇谷憲洋,「ポンバル政権の成立について-リスボン大地震の政治的影響-」,『大分県立芸術文化短期大学研究紀要』,第49巻,2012年,pp.31-41.
同,「同時代印刷物から見たリスボン地震(1755年)への反応と対策」,『大分県立芸術文化短期大学研究紀要』,第52巻,2015年,pp. 123-136.
同,「リスボン地震から近代国家への道-改革事業」,(公財)ひょうご震災21世紀研究機構研究調査本部研究調査報告書『リスボン地震とその文明史的意義の考察』,2015年,pp.32-45.

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